新宿溝口クリニック 今野裕之先生、桑島靖子先生

漢方医

新宿溝口クリニック

今野裕之(こんのひろゆき)先生

  • ※全ての情報は掲載時のものです。
    現在の状況とは異なる場合があります。

新宿溝口クリニック

桑島靖子(くわじまやすこ)先生

  • ※全ての情報は掲載時のものです。
    現在の状況とは異なる場合があります。

社会の高齢化に伴い、ますます認知症の患者さんが増えていますが、残念ながら現在のところ、どのタイプの認知症にも根本的な治療法はありません。認知症の症状は物忘れだけではなく、抑うつ・不安、幻覚や妄想、介護への抵抗、徘徊など様々な周辺症状が現れることもあります。そのような場合、我々も治療に苦慮しますし、介護をしているご家族も大変苦労されます。周辺症状に対しては、抗認知症薬が効くこともありますが、症状によっては抗精神病薬なども使用せざるを得ない場合もあります。しかしながら、多くの認知症患者さんは高齢ということもあって、ふらつきや傾眠など、薬の副作用が問題になりやすいのです。そのような時、助けになるのが漢方です。以前から周辺症状に対して抑肝散が広く使われていますが、実際、抑肝散が効く割合は高いと感じています。特に興奮しやすい、幻覚があるなどの症状を訴える方にはまず抑肝散や抑肝散加陳皮半夏を試してみることにしています。

釣藤散、八味地黄丸にはRCTという信頼性の高い試験デザインで認知機能改善効果を示したという報告があるので、それぞれの患者さんの体質や症状に合わせて使用することがあります。他には、加味帰脾湯、十全大補湯、加味温胆湯、当帰芍薬散、黄連解毒湯、六味丸などをしばしば使います。

フェルラ酸という成分をご存知でしょうか。植物界に広く存在するフェノール酸の一種で、抗酸化作用、抗炎症作用などのほか、動物実験では、アルツハイマー病の主な原因と考えられている脳内のアミロイドβの凝集阻害および神経毒性抑制などの効果が明らかとなっています。また、百数十名のアルツハイマー病の患者さんを対象とした9ヶ月間の臨床試験では、プラセボと比較して認知機能の低下を有意に抑制しました。このフェルラ酸は、ガーデンアンゼリカ(西洋当帰)というアセチルコリンエルテラーゼ阻害作用という抗認知症薬ドネペジルと同じような持つ成分も有しており、サプリメントとしてすでに売られております。コウノメソッドで有名な河野和彦先生を中心に全国の多くの医師がアルツハイマー病やレビー小体型認知症等の治療に用いております。フェルラ酸は前述のように認知症予防効果が期待でき、常用しても安全性が高いことから、私は認知症発症前の物忘れでお困りの方に対しても、早めに使用することをお勧めしています。

 

また、最近では認知症予防に対する関心の高まりや老化に関する研究の進歩によって、様々な食品や栄養素が認知症予防に効果が期待できることがわかってきました。ざっと挙げるだけでもビタミンC・D・E・B12、葉酸、レスベラトロール、オリーブオイル、イチョウ葉、アスタキサンチン、緑茶カテキン、クルクミン、オメガ3脂肪酸など様々なものがあります。

私が所属する順天堂大学の加齢制御医学講座での最近の研究テーマは中鎖脂肪酸です。中鎖脂肪酸は飽和脂肪酸に属する脂肪の一種で、ココナッツオイルやパーム油などに多く含まれているものです。一般的な飽和脂肪酸である長鎖脂肪酸と異なり、小腸で吸収されるとすぐに門脈から肝臓に移行します。ほとんどはアセチルCoAとなってTCA回路に入り、エネルギーとして利用されるのですが、一部がケトン体という物質に変わります。長い間、脳はブドウ糖しかエネルギーとして使えないと考えられていましたが、最近になってこのケトン体も脳でエネルギー源になることがわかってきました。実は、代表的な認知症であるアルツハイマー病の脳では、インスリンを作ったり糖を利用したりするのに欠かせない複数の遺伝子の働きが落ちており、インスリンがうまく働かなくなることから、第3の糖尿病とも言われています。このため、アルツハイマー病では神経細胞がブドウ糖を取り込めなくなり慢性的なエネルギー欠乏に陥っていますが、ケトン体の原料である中鎖脂肪酸を投与すればこのエネルギー欠乏が解消され、神経細胞の機能低下を改善できると考えられるのです。実際、アメリカでは中鎖脂肪酸製剤を軽度アルツハイマー病患者に投与したところ、認知機能テストの結果が有意に改善したという報告があります。

機能性食品や漢方を上手に併用することによって、薬に頼らない、またはより少量の薬で自然な形で認知症の発症および進行を予防することが可能になると考えています。

自分自身も症状にあわせた漢方を飲んでいましたが、症状は軽減するものの、疲労感や顔色の悪さだけは改善しませんでした。栄養療法に出会ってから顔色がよくなり、疲労感もとれ、仕事もアクティブにこなせるようになりました。これが理由です。

血液検査によってその人の栄養素の過不足を解析し、食事と至適量の栄養素の補充によってオプティマルヘルスをめざす治療法です。

漢方外来における女性の鉄欠乏性貧血(隠れ鉄欠乏=フェリチン低値)はとても多いです。漢方外来の女性患者比率は高く、冷え、疲れやすい、肩こり、頭痛、めまい、不眠、更年期症状、皮膚のトラブル、便通異常、不妊などで受診される方が多いです。私の漢方外来での女性患者の血液データは、ほぼ全員に鉄欠乏がみられました。ヘモグロビンの低下がないために他院では貧血なしといわれても、フェリチンが低下している鉄欠乏の方も多くみられました。

ヘモグロビンの低下に先行して、まず貯蔵鉄であるフェリチンの低下から鉄欠乏が進行していきます。鉄欠乏は女性に多くの不定愁訴と不妊の問題を引き起こしています。イライラや落ち込み、不安感、疲れやすい、食欲不振、朝起きられない、冷え、肩がこる、頭痛、めまい、動悸、風邪をひきやすい、アザができやすい、口のまわりのニキビ、歯肉出血、…など多彩な愁訴と関係しています。
また鉄欠乏は、卵子の質、子宮内感染症とも関係があるといわれており、不妊、流早産の原因の1つにもなっています。鉄欠乏は全身の酸素不足と酵素反応を低下させ、身体症状だけでなく不安焦燥や抑うつ気分といった精神症状にも大きく影響しています。

 

漢方外来において、鉄欠乏の有無を見極めることは医師としてとても重要です。鉄欠乏を見極めることにより、鉄欠乏による症状に対する不要な抗不安薬や抗うつ薬やその他の不必要な薬が減るではないかと考えています。

漢方と栄養療法はとても相性の良い治療法だと思います。

 

栄養療法導入前の漢方外来の症例です。手足の冷えとしもやけを主訴とする35歳の女性に当帰四逆加呉茱萸生姜湯と附子を保険の最大量を処方していました。しかし冷えの改善はわずかで、しもやけも出来ていました。栄養療法を導入した当初の経過は、血液データでは甲状腺機能は正常であるものの、フェリチンが低値であり鉄欠乏がみられました。そのため、毎食に肉や魚を取り入れてもらい、ヘム鉄を補充しながら同処方を服用してもらいました。すると処方量が3分の2の量で冷えとしもやけが消失しました。また、栄養療法をしてから抑肝散加陳皮半夏を投与したところ、漢方薬の効きがよくなり、抗不安薬がなくなる患者様を経験しています。栄養状態がよくなると漢方薬の効き方も変わってくるのではないでしょうか?

外来では、患者様の毎日の食事内容と時間と回数、好物や偏食、生活リズムを必ずお聞きしています。朝食、昼食、夕食、間食の内容を知ることはとても大きな情報です。栄養療法での食事指導は、「低糖質、高タンパク質」を提唱しています。とくに毎食に動物性タンパク質を取り入れてもらうように指導しています。現代人はカロリーは足りていても、糖質が多く、タンパク質や栄養素が不十分ではないでしょうか?栄養療法は“現代版食養生”と考えています。

健康であるための理想的なタンパク質の必要量は体重1kgあたり最低1g/kgです。これ以下の摂取量だと、筋肉量低下、臓器機能低下、貧血、免疫力低下、胃腸機能低下、骨粗鬆症が早期に起こり老化が進む可能性があります。体重50kgなら必要なタンパク質は50gということになります。通常の食事では1日のタンパク質摂取量は20-30gであることが多いので、30g程度不足していることになります。30gのタンパク質の量というのは、卵4個分、牛肉400g、豆腐2丁くらいです。ここでいうタンパク質量は食べ物の重量ではなく、プロテインスコアから換算されたものです。プロテインスコアは卵100、牛肉80、豆腐50です。プロテインスコア低値は、十分なタンパク質合成ができないことを意味します。
毎食に動物性タンパク質である肉、魚、卵をとりいれることをおすすめ致します。動物性タンパク質をとることで、吸収効率のよいヘム鉄(有機鉄)を摂取できるので鉄のよい補給源にもなります。ホウレンソウやひじきは非ヘム鉄(無機鉄)であり、ほとんど吸収されず鉄の補給源としては不十分です。

鉄は、食事から10-15mg/日の摂取、1mg吸収され、1mg排泄されます。しかし有経の女性は月経もあり平均60mg/月を失うため、鉄の喪失は2mg/日となります。単純に考えると、有経の女性は2mg/日必要なので、男性の2倍鉄を摂取しないと毎月の月経で鉄欠乏が進行していくということになります。また妊娠時には胎児の成長のために鉄の需要が増し4mg/日必要となります。妊婦の食事をみても、カロリーを控える=お肉は控えている方が多いように思います。そのため産後に鉄欠乏が深刻な状態となり、産後の体調不良、抑うつ、不妊の原因となっています。有経の女性や出産歴のある女性で、野菜中心で肉や魚を控えている方はそれだけで鉄欠乏の可能性を疑うことが大切です。

 

漢方外来に来られる方は女性が多いので、食事内容、月経の頻度や日数、経血量、妊娠出産歴、便通や便の性状、生活リズムについて必ずお聞きしています。

東洋医学は「養生と漢方治療」の2本の柱から成り立っています。日々の食事は漢方薬よりも大切です。栄養療法で学んだことは「不調の原因には栄養欠損を疑う」ということです。自律神経失調症、更年期、年齢のせい、気のせいという曖昧な言葉を使う前に、きちんと患者様と向かい合い、食事や生活を把握し、原因を明確にしていく努力が大切なのではないでしょうか。漢方診療と栄養療法の併用は、これまで以上に多くの患者様に笑顔をもたらせてくれると思います。

先生の略歴ご紹介

新宿溝口クリニック(現 みぞぐちクリニック
今野裕之(こんのひろゆき)先生

日本大学医学部卒。日本大学医学部精神医学教室入局。日本大学医学部付属板橋病院を経て薫風会山田病院に入職。平成23年3月より順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座の大学院生として主に認知症予防に関する研究に従事。平成26年8月より新宿溝口クリニックにて、精神科領域の栄養療法を実施している。

資格:
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医、日本抗加齢医学会専門医

学会:
日本精神神経学会、日本精神分析学会、日本抗加齢医学会、日本認知療法学会、Institute for Functional Medicine(米国)

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新宿溝口クリニック(現 みぞぐちクリニック
桑島靖子(くわじまやすこ)先生
桑島内科医院 副院長

大阪医科大学卒業
徳島大学医学部第1内科入局
徳島県立中央病院にて研修
高松赤十字病院血液内科
京都大学医学部核医学科入局
大阪北逓信病院
H17年より医療法人社団桑島内科医院副院長現在に至る
H18年より漢方診療
H22年より栄養療法導入
H25年より新宿溝口クリニック非常勤医師(栄養療法)

専門:
栄養療法(女性の問題、子供の問題、成人病、うつ病、ガン)

資格:
日本内科学会総合内科専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、ビタミンC点滴治療認定医

活動:
「女性のイライラがスッキリ消える食事」著 マイナビ
「キレイにやせたい人はサラダより焼肉を食べなさい」医学監修 主婦の友社

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