風邪(かぜ)や感染症の症状改善に、漢方専門医が処方する「葛根湯」以外の漢方薬とは

山田正治先生

やまだ診療所 院長 山田 正治 先生

甘く見られやすいポストコロナ時代の風邪(かぜ)、重症化のリスクも

新型コロナウイルス感染症の流行中は咳やくしゃみ、鼻水に敏感になっていたけれど、最近は少しくらいの風邪(かぜ)症状は気にしなくなったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。当院でも風邪(かぜ)症状で受診する患者さんの数は、新型コロナウイルス感染症の流行中に比べて減っている印象があります。

新型コロナウイルス感染症の流行中は、検査が無料で受けられたり、感染の有無を学校や勤務先に報告する必要があったりしたこともあり、風邪(かぜ)の症状を訴えて受診する患者さんが多くいらっしゃいました。特に患者さんの訴えが多かった症状は喉の痛みで、診察すると扁桃腺は腫れておらず、喉が赤い患者さんが多く見られました。

2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行して以降、風邪(かぜ)くらいでは医療機関を受診するまでもないと考える方が増えたのではないでしょうか。受診しても検査はせずに薬の処方だけ希望されるような、コンパクトな診療を求める患者さんの割合が多くなったという印象があります。患者さんの訴える症状も、咳や鼻づまり、鼻水が多く、喉の痛みを強く訴える患者さんは減りました。喉が痛い場合も扁桃腺が腫れて扁桃炎を起こしている方が大半です。コロナ前の風邪(かぜ)に戻ったように感じます。

風邪(かぜ)の症状があり受診された患者さんのなかでも、糖尿病などの持病のある方や高齢の方などは重症化しやすいため注意して診察しています。診察所見次第ですが、通常の抗原検査に加えてレントゲンや採血など詳細な検査をお勧めすることもあります。発症から日数が経過し長引いている方や、他院で診察を受けたが治らないため当院を受診した方などは、治りにくい状態にある可能性を考えて診察しています。

風邪(かぜ)が重症化しやすい方

  • 糖尿病などの持病がある
  • 高齢である
    • 発症後間もない軽症の患者さんであれば、薬を処方して様子を見てもらいます。症状が改善しない場合や別の症状が出てくるような場合には、ほかの治療を検討します。また、風邪(かぜ)の治療で抗生物質を処方することは通常ありませんが、マイコプラズマ感染症の流行時期などは感染症の可能性も考えられるため、抗生物質を処方することもあります。

      抗ヒスタミン薬やロペラミドの副作用が気になる方に、漢方という選択肢

      風邪(かぜ)の症状に対する漢方処方では、鼻水がある方に小青竜湯(しょうせいりゅうとう)を使用することがあります。西洋薬では鼻症状には抗ヒスタミン薬を処方しますが、副作用として眠気があります。一方で、小青竜湯麻黄(マオウ)が含まれています。麻黄の成分であるエフェドリンには、交感神経を興奮させる作用があるため、眠気を嫌がる方にお勧めしています。また、鼻づまりがある方には、葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)を処方することがあります。

      下痢などのお腹の症状がある場合には、五苓散(ごれいさん)柴苓湯(さいれいとう)を処方します。下痢に対して西洋薬ではロペラミドを使用しますが、ロペラミドは下痢を抑える強い効果がある一方で、下痢は無理に抑えると身体の外に排泄したいものまでお腹の中に留めてしまうことがあり、かえって症状が長引く場合もあります。柴苓湯は下痢を抑える効果はロペラミドほど強くありませんが、適度に出しながら症状を抑えることができます。

      風邪(かぜ)の症状に処方する漢方薬の例

      鼻症状

      • 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
      • 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)
        • お腹の症状

          • 五苓散(ごれいさん)
          • 柴苓湯(さいれいとう)
            • 風邪(かぜ)のときの漢方=葛根湯

              風邪(かぜ)のときの漢方といえば、葛根湯(かっこんとう)というイメージをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、当院を受診した風邪(かぜ)の患者さんに葛根湯を処方することはほとんどありません。葛根湯は、風邪(かぜ)のひき始めで、ゾクゾクとした寒気があるときに服用するのに適した漢方薬です。葛根湯が適した時期に医療機関を受診される患者さんはほとんどいません。医療機関を受診しようと思うような症状が出ている患者さんは、葛根湯を服用するタイミングは過ぎてしまっているのです。

              また、風邪(かぜ)の症状が複数ある場合でも、漢方薬の処方は多くても2剤までに留めています。複数の方剤を処方すると、効果を打ち消しあってしまう恐れがあるからです。また、風邪(かぜ)で受診された急性期の患者さんは体力的にも精神的にも余裕がありません。複数の薬剤についての説明に時間をかけるより、薬剤の数を絞って必要な説明を手短に行い、家に帰ってゆっくり休んでいただくほうがよいと考えています。もっとも、お話するなかで漢方に興味があると感じた患者さんであれば、2剤目の処方を検討することもあります。ただし、風邪(かぜ)の患者さんは1度の診察で治ってしまう方が多く、2回目に来院される方が少ないため、処方した漢方薬の効果のほどを患者さんに確認することが難しいのは残念なところです。

              漢方薬での治療に興味がある方は、漢方専門医のいる医療機関で相談して

              漢方については、高額であるとか、保険が使えないといった誤解や、効果が出るのが遅いという先入観を持っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、医療機関で処方される漢方は、保険診療ですから高額にはなりませんし、体質に合わせて処方された漢方は効果も充分に期待できます。漢方の場合は、1つの方剤で様々な疾患や症状に対応できる可能性もありますから、割安になることもあります。漢方薬の服用を始めて、長年悩んでいた複数の症状が改善したという、患者さんのうれしい報告を聞くこともありますよ。

              漢方専門医でなくても漢方を処方する医療機関はありますが、漢方の良さを熟知し、患者さん一人一人にあった漢方を処方するために充分な修練を積んでいるのが漢方専門医です。私も漢方専門医の一人として、漢方による治療の良さを患者さんに伝えたい、効果を実感してもらいたいという思いを胸に、日々診療にあたっています。漢方による治療を取り入れてみたいと考えている方は、ぜひ漢方専門医のいる医療機関を受診してほしいと思います。漢方の効果を感じてみてください。

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              院長 山田 正治 先生