さまざまな症状がある「めまい」、なかなか改善しないなら漢方による治療も視野に

めまいの症状や原因はさまざま

目がまわったり、目がくらんで倒れそうになったりすることを「めまい」といいます。めまいは、比較的多くの方が経験する身近な病気ですが、「自分や周囲がぐるぐると回る」「体がふわふわする」「気が遠くなりそうな感じがする」「目の前が暗く感じる」「物が二重に見える」など、めまいにもさまざまな症状があります。

めまいの原因となる病気も多岐にわたります。最も多いのは耳の奥(内耳)にあって平衡器官を司る三半規管の障害による内耳性めまいですが、なかには脳卒中など脳の病気が原因となっていたり、高血圧、不整脈、貧血などの病気やストレスも原因となるほか、ほかの病気で服用している薬によって起こるめまいもあります。

めまいを訴える割合は女性が男性の2倍

そこで今回は、株式会社JMDCが保有するレセプトデータを用いて、2022年1月~12月の期間に、一度でもめまいの診断がついた患者数を集計しました。その結果、男性では母集団5,651,467人のうち、めまいの診断がされた人は87,788人(約1.6%)、女性では母集団5,065,981人に対し、めまいの診断がされた人は176,016人(約3.5%)と、男性に比べ女性のめまい患者さんの占める割合は約2倍高くなっていました。

厚生労働省が毎年実施している「国民生活基礎調査」の2022年の結果から、めまいの自覚症状があると回答した人(有訴者)の数(人口1,000人当たり)を算出したところ、男性は12.5人で女性は27.6人と、女性は男性に比べて2倍超の方がめまいの自覚症状があると回答していました。

さらに、同調査の2016年、2019年、2022年の結果から、同様にめまいの有訴者数を算出したところ、図1に示す通り、2016年から2022年にかけて徐々に低下していることがわかりました。

 

図1 人口1,000人あたりのめまいの有訴者数

めまいの診断率は男女とも増加傾向

それでは、めまいと診断された患者数はどのように推移しているのでしょう。

JMDCのレセプトデータを用いて、2016年1月~2022年12月の7年間に医療機関でめまいと診断された患者数を集計し、診断率を算出しました。その結果、2016年にめまいと診断された患者さんの割合は、男性で1.2%、女性で2.6%、2018年ではそれぞれ1.3%と2.8%、2022年ではそれぞれ1.4%と3.2%でした。

 

図2 男女別めまい診断率の推移

 

新型コロナウイルス感染拡大に伴う受診控えの影響が考えられる2020年を除けば、めまいの診断率は毎年増加しています。

これらの結果から、めまいを自覚する人は減ったものの、めまいで医療機関を受診する人が増えたことが明らかになりました。

めまいで医療機関を受診する人が増えた理由の1つとして、めまいの新しい疾患概念が世に報告されたことが考えられます。2018年にめまいの国際学会(バラニー学会)が、新しい慢性めまい疾患として「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」を提唱しました。このめまいは、壮年期に多いふらつき(身体の揺れの不安定、浮動性めまい)を伴う病気であることから、これまで症状があっても我慢していた患者さんが、医療機関を受診するようになった可能性が考えられます。

なかなかよくならない「めまい」の治療に、漢方という選択肢

めまいの治療では、めまいの原因となっている病気の治療と、めまいの症状を軽減するための治療があります。めまいの症状を軽減する治療では、炭酸水素ナトリウムの点滴や、吐き気止め、抗不安薬、抗めまい薬が用いられますが、これらの治療では症状が改善しない場合には、漢方薬が処方されることがあります。

そこで、2022年3月~2023年2月に、めまいと診断された患者さんに処方された3種類の漢方薬、五苓散(ごれいさん)苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)について、処方された割合を年代別に集計しました。その結果、いずれの漢方薬も10〜19歳の患者さんに多く処方され、40代以降の患者さんへの処方割合は減少していました。

 

図3 年齢層別めまい患者への漢方3製剤の処方率
(n=10,698,20)

 

なお、 五苓散 苓桂朮甘湯 半夏白朮天麻湯 には、以下のような効能があると考えられています。

  • 五苓散 :体の水分バランスを適切に調節する働き(利水作用)があり、吐き気、むくみを改善する効能が期待される。
  • 苓桂朮甘湯 :エネルギーの不足を補う(補気)作用と利水の両方を兼ね備える特徴があり、めまいや頭痛に対する効能が期待される。
  • 半夏白朮天麻湯 :補気と利水、ふらつきの改善に効果があるとされる天麻を加えたもので、胃腸虚弱による下肢の冷え、めまいや頭痛の改善が期待される。

めまいの症状がつらいときは、かかりつけ医に相談を

さまざまな原因によって起こる「めまい」。すぐに症状がおさまるようなら、安静にして様子を見るようにしましょう。症状がつらい場合や、おさまらない、何度も繰り返す場合、また、頭痛がしたり物が二重に見えるような場合やほかの病気がないか気になる場合には、がまんせずに、かかりつけ医の診察を受けましょう。めまいの原因によって、耳鼻咽喉科や脳神経内科など、受診すべき診療科を教えてもらえます。

監修
横浜市立みなと赤十字病院
めまい・平衡神経科 部長 新井基洋 先生