ストレス抱える女性のための、人生を整える漢方

慶應義塾大学医学部漢方医学センター
医局長助教 堀場 裕子 先生

外来患者の8割が訴える「疲れやすい・疲労感」

女性は日々多くのストレスにさらされています。ストレスの原因は、勉強や部活、家事や育児、社会進出による仕事の責任、親の介護、加齢変化など多岐にわたります。その日々のストレスは様々な身体的・精神的不調を引き起こすことがあります。

女性の不調のうち、非常に多い症状は「疲れやすい・倦怠感」です。慶應義塾大学病院の婦人科外来へ来院した患者さんに問診を取ったところ、80%以上の人が「疲れやすい・倦怠感」を感じているという結果になりました。

多く見られる女性の不調

  • 疲れやすい・倦怠感
  • 月経トラブル(月経痛、月経不順、月経前の精神不調)
  • 更年期の症状(ホットフラッシュ、動悸、多汗、不安・不眠)
  • 加齢による変化(関節痛、耳鳴り、排尿障害、寝汗、視力低下)
  • 冷え症、天気痛(頭重・頭痛、むくみ、倦怠感)、便秘、肌荒れ

月経トラブルも多く見られます。10代から30代では月経痛や月経不順、月経前の精神不調があり、我慢したり悪化すれば学校や仕事を休まざるをえなくなる方もいます。更年期に入ってくるとホルモンバランスが乱れホットフラッシュや動悸、多汗、不安・不眠など、精神症状を中心に複雑化する傾向があります。高齢期になると加齢による変化が著しくなり、関節痛や耳鳴り、排尿障害などが出現します。ホルモン量が年齢により変化すると同時に、女性の不調も様々に変化します。

ホルモンバランの乱れとは別に、天気や気候によって不調を自覚する方も多くなりました。雨の日や台風前、気圧の変化で、頭重や頭痛、むくみ、倦怠感などの症状の出現は、近年では「天気痛」や「気象病」などとして広く認識されるようになってきています。

日々の不調、我慢は禁物

漢方医として外来を担当するようになり、前述したような日々の不調を我慢している女性が非常に多いことがわかりました。「病院に行く時間がなく我慢していた」、「どこに相談していいかわからない」、「こんな症状で病院にかかっていいのか不安だった」といった声もよく聞きます。

症状を長く我慢していると、症状が改善しにくくなったり、別の疾患につながることもあります。また「百の病も気からなる」という言葉もありますが、ストレスや疲れ、また睡眠不足や偏った食生活などの影響で、痛みを感じたり、悪化したりすることもよく言われています。

一方で、自分の生活習慣や環境を変え、軽い運動習慣を継続するなど自分に合ったストレス対策などをすることで、「疲れやすい・倦怠感」という症状は軽減できることもあります。それでも症状が取りきれなかったり、慢性化したり重症化した時は、自分の力だけで対応することが難しいこともありますので、ぜひ医師に相談してください。一人で抱え込んで我慢するのは禁物です。

症状の原因を探り、患者さんの体質にあった漢方薬を選択

漢方外来には様々な患者さんが受診されます。まさに老若男女です。先ほどもお話しした「疲れやすい・倦怠感」や「冷え症」など西洋治療では対応が難しい症状で悩まれている患者さん、「西洋治療をすでに受けているけれど症状が取りきれない」、「西洋薬の副作用で西洋治療が続けられない」、といった患者さんも多くいらっしゃいます。

「疲れやすい・倦怠感」「冷え症」などの症状でも漢方治療でも対応することができます。なぜなら漢方治療は患者さんの症状を引き起こしている原因を探り、その原因と患者さん自身の体質に合った漢方薬を選択するからです。そのため、例えば同じ「疲れやすい・倦怠感」という症状でも、違う漢方薬を処方することがあります。逆に同じ漢方薬でも全く違う症状で内服していることもあるのです。症状の原因同様に、漢方薬の内服目的も本当に様々なのです。

漢方治療の目的は体質改善。長く飲み続けることも

初診で来られる患者さんの漢方薬に対する印象で非常に多いのが、大きく2つあります。

1つは、「漢方薬は西洋薬と比べて副作用が少ない」です。大きく間違ってはいませんが、漢方薬に全く副作用がないわけではありません。漢方薬によってはむくみが出たりすることもあります。漢方処方時に副作用のお話はしていますが、何か不安な点や内服を始めてから気になる症状が出てきたときは、すぐに主治医に相談してください。

2つめは「長く飲まないと効果が出ない」と思われている方も多くいらっしゃいます。漢方薬には比較的早く効果が出るものがあります。先ほどもお話しした「天気痛」や「気象病」などの症状には、30分くらい前でも効果を発揮することができる漢方薬があります。そのため毎日飲まなくても、天気予報や症状を自分で判断し、自分のタイミングで内服をすることもできるのです。

漢方治療は最終的に体質を改善することが目的なので、「疲れやすい・倦怠感」「冷え症」といった症状は漢方薬ですぐに症状がなくなった、ということは少ないと思います。年単位で内服を継続することで「○年前と比べて今の方が疲れにくい」「○年前の冬より寒さに強くなった」などと感じていただけることは十分にあります。

漢方薬に対する主な印象2つ

  • 漢方薬は西洋薬と比べて副作用が少ない
  • 長く飲まないと効果が出ない

漢方専門医と共に、自分を見つめて人生を整えよう

今では、漢方薬はドラッグストアなどで医師の処方箋がなくても購入することができるようになりました。市販の漢方薬のパッケージに書かれた説明文は非常にわかりやすく、誰でも比較的選びやすくなっています。自分が選んだ漢方薬で体調がよくなったことを実感できている方も多いと思います。

一方で、自分に合った漢方薬がなかなか分からなかったり、本当に自分の選んだ漢方でいいのかと不安な方もいるでしょう。そんな時はぜひ、漢方専門医のいる外来を受診してみてください。

漢方治療では患者さんに合った漢方薬を選択するために、脈や舌、腹部の診察などを行います。そうしてより安全で患者さんに適した漢方薬を処方しているのです。もちろん、漢方薬だけで全てが解決できるわけではありません。患者さんと診察を重ねていく中で、改善すべき生活習慣や食生活、運動量などのアドバイスなどをすることもあります。さらに、年を重ねると症状も変化していきますので、その変化にすぐに対応することができます。漢方治療を続けることは、漢方専門医と共に自分自身を見つめて、その後の長く続く人生を健康に整えていくことにつながるはずです。

 

慶應義塾大学医学部漢方医学センター
医局長助教 堀場 裕子 先生

暮らしの不調 トップページへ