コロナ後遺症と漢方 その1 コロナ後遺症の症状

私たちの日常生活を一変させた、新型コロナウイルス感染症の世界的流行。2023年5月には感染法上の位置付けが5類感染症に移行したとはいえ、感染後も続く症状に悩まされている方もいるかもしれません。

今回は、コロナ後遺症で起こる症状について、医療ビッグデータを用いた調査や世界各地での研究結果をふまえてご紹介します。続く「その2」では、これらの症状に対してする漢方治療の可能性も紹介します。

コロナ後遺症で多いのは呼吸器系と消化器系の症状

新型コロナウイルスが全世界で猛威を奮い始めてから、約3年が経ちました。その特徴が明らかになるにつれて問題視されているのが、いわゆる“コロナ後遺症”です。
“コロナ後遺症”とは、世界医保健機関(WHO)によると、以下のように定義されています。

新型コロナウイルスに罹患した人にみられ、少なくとも2か月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないもの(通常はCOVID-19の発症から3か月経った時点にもみられる)

“コロナ後遺症”について、中国の武漢で実施された研究をご紹介しましょう。この研究は、新型コロナウイルスが原因で入院した患者さん約1,700人を対象に行われたものです。研究の結果、感染後6か月が経過した患者さんのうち、76%に何らかの症状が残っていたとされています

代表的な症状

  • 全身のだるさ、または重いものが持ち上げにくいなどといった筋力の低下(63%)
  • 不眠(26%)
  • 不安、気分の落ち込み(23%)
  • 息切れ(26%) など

今回は日本における新型コロナウイルス後遺症の現状を、入院患者さん12,649人を対象に調査しました。ここからはその結果をご紹介していきます。

全体の集計結果を表1に示します(上位16疾患)。大きく分類すると、まずは咳や息苦しさなどの肺や心臓(呼吸器系)の症状 (黄色)、続いて腹痛や腹部の不快感などのお腹(消化器系)の症状 (青色)、そして頭痛・熱などの症状 (灰色)、睡眠障害(橙色)、糖尿病などのその他の傷病(白色)と診断されていました。

表1. 新型コロナウイルス感染症患者が退院後3か月間で新たに診断された傷病の内訳

肺炎や呼吸不全による息苦しさが退院後も続く

上位16疾患の中で最も多くを占めていたのが呼吸器系(胸部)の症状です。

調査対象となった患者さんにみられた症状

  • 肺炎(12%)
  • 呼吸不全(10%)
  • 喘息(7%)
  • 急性気管支炎(6%) など

肺炎や呼吸不全による息苦しさは新型コロナウイルスの主な症状であり、入院中に認められたそれらの症状が、退院後も続いていると考えられます。

ここで、他の研究結果もみてみましょう。新型コロナウイルス感染症から回復した患者さんを対象とした研究によると、肺のダメージは一般的には2~4週間で消えると考えられます。しかし、特に重症の患者さんでは、感染から1年経過しても肺のダメージが残っているケースもありました

また、コロナ後遺症発症の原因を、新型コロナウイルス感染より前から持っていた患者さんや新型コロナウイルス感染による症状が比較的強い患者さんでは、回復がより遅くなる傾向にあります。

一方、新型コロナウイルスに感染し、症状が比較的軽症で済んだ患者さんを対象とした他の研究では、軽症の患者さんであっても発症後約1か月間は、肺機能に異常が認められたとの報告もあります

新型コロナウイルスの合併症では、初回の感染後に、細菌による肺炎を引き起こすこともあります。新型コロナウイルス感染後も息苦しさが続く場合は、病院を受診し、胸部のレントゲン検査が必要かを医師に判断してもらいましょう。

胃食道逆流症は胸焼けに加え、息切れや動悸も

新型コロナウイルス感染症の患者さんは、臨床医である私の経験からして通常、発熱と息苦しさを訴えます。しかし中には、食欲の低下、下痢や吐き気といった腹部の症状のみを自覚する患者さんもいます。

今回の医療データを用いた調査でみられた消化器系(腹部)の症状

  • 下痢
  • 食欲の低下
  • 吐き気
  • 胃食道逆流症 など

また、調査対象者の11%の方が胃食道逆流症になっていました。胃食道逆流症とは、胃酸や胃液が食道に逆流し、胸焼けなどの症状をきたす病気を指します。実際、胃食道逆流症は、新型コロナウイルス感染後のよくある合併症として知られています。

胃食道逆流症では、通常、主な症状として胸焼けがみられますが、新型コロナウイルス感染後の胃食道逆流症の場合は息切れや動悸といった症状を訴える患者さんが比較的多くいます。これも、新型コロナウイルス感染後に特有の症状であるといえます。

消化器系の症状で、下痢や吐き気などの症状を意味する“その他の腸機能障害”よりも“胃食道逆流”や“胃潰瘍”が多いのは、臨床医の目線からすると意外な結果でした。新型コロナウイルスの入院治療では肺炎などの炎症を抑えるためにステロイドというホルモンの薬を用いるのですが、実はステロイドの使用によって胃潰瘍ができてしまうリスクが上がるといわれていますので、そういったことも影響しているかもしれませんね補注。

補注:
他に考えられる理由として、ステロイドを使用する際には胃潰瘍を予防するために、一緒に胃薬(胃酸の分泌を抑えて胃に穴が開くのを防ぐ薬)を投与することが多くあります。医師はステロイドによる胃潰瘍を予防するために胃薬を処方するのですが、実際に胃潰瘍が起こっているかどうかに関わらず、胃薬を出す理由として胃潰瘍という病名を用いることも多くあります。この点も、胃潰瘍の件数が多くなった背景として考えられる理由の1つです。

コロナ後遺症では睡眠障害や発熱、頭痛も

呼吸器、消化器以外の症状では、睡眠障害の症状が出た方が7%いました。ある中国の研究では、感染から半年経過後も、約26%の患者さんが睡眠障害の1つである不眠をきたしているという結果もあることから、新型コロナウイルス感染後の不眠は、比較的頻度の高い症状と考えられています
考えられる理由としては、新型コロナウイルス感染拡大に伴い在宅勤務に移行し、通勤していた頃よりも起きる時間が遅くなり、結果として眠る時間が遅くなる、といった睡眠リズムの乱れや、夜間の咳などの症状によって眠りが浅くなっている可能性が挙げられます。

その他の症状についてもみていきましょう。発熱や頭痛の発症率は、それぞれ6%と5%でした。発熱は、感染直後にみられる症状のうち、最も高頻度の症状の1つであり、2〜4週間後には回復すると言われています。

頭痛は、今回の調査対象である入院患者さん、つまり比較的重症な患者さんよりも、比較的症状の軽い、外来を受診した患者さんによくみられます。ここで、新型コロナウイルス感染者を対象とした、頭痛に関するスイスの研究結果をご紹介します。この研究によると、外来受診した(=入院していない)患者さんのうち10%に、感染から7か月経過後も頭痛が残っていたそうです

最後に糖尿病についての研究結果をみてみましょう。ある研究では、新型コロナウイルスに感染した患者さんは、そうでない患者さんと比べて、糖尿病を新たに発症する可能性が約40%高いことが明らかになりましたⅵ。新型コロナウイルスと糖尿病発生の因果関係については、今後の研究が待たれます。

後遺症の経過は多様。日常生活の再開は医師に相談してから

新型コロナウイルスの後遺症の経過は、それまでの健康状態や、感染時の重症度などによって様々な経過をたどると考えられます。職場や学校への復帰、日常的な運動を再開するタイミングについては、医師に相談しましょう。

様々な症状を呈するコロナ後遺症。どのような治療が行われるのでしょうか。「その2」ではコロナ後遺症の治療について、漢方薬も含めてご紹介します。

【今回の調査データについて】
今回の調査は、株式会社JMDCが保有するレセプトデータ(データ対象期間:2020年4月~2021年12月)を用いて、新型コロナウイルスが原因で入院し、入院前の1年間には調査の対象となる症状を訴えて医療機関を受診したことがなく、退院後3か月間で、新たにその症状が認められた患者さんのみ(12,649人)を対象に行ったものです。

【参考文献】
ⅰ: Huang C, Huang L, Wang Y, et al. 6-month consequences of COVID-19 in patients discharged from hospital: a cohort study. Lancet Lond Engl 2021;397(10270):220–32.
ⅱ: Pan F, Ye T, Sun P, et al. Time Course of Lung Changes at Chest CT during Recovery from Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). Radiology 2020;295(3):715–21.
ⅲ: Huang L, Yao Q, Gu X, et al. 1-year outcomes in hospital survivors with COVID-19: a longitudinal cohort study. Lancet 2021;398(10302):747–58.
ⅳ: Mo X, Jian W, Su Z, et al. Abnormal pulmonary function in COVID-19 patients at time of hospital discharge. Eur Respir J 2020;55(6):2001217.
ⅴ: Nehme M, Braillard O, Chappuis F, Courvoisier DS, Guessous I, Team CS. Prevalence of Symptoms More Than Seven Months After Diagnosis of Symptomatic COVID-19 in an Outpatient Setting. Ann Intern Med 2021;174(9):M21-0878.
ⅵ: Xie Y, Al-Aly Z. Risks and burdens of incident diabetes in long COVID: a cohort study. Lancet Diabetes Endocrinol 2022;10(5):311–21.

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