アレルギーの体質改善に、体全体のバランスを調整する漢方治療

伏見皮フクリニック 院長 伊東 祥雄 先生

伏見皮フクリニック
院長 伊東 祥雄 先生

花粉症、ぜんそく、じんましん…日本人の4割が悩まされるアレルギー性疾患

日々テレビやWebサイトでよく耳にする言葉、「アレルギー」。アレルギーとは一体どういう症状なのでしょうか?

例えば、春先に大流行するスギやヒノキの花粉症、年中トラブルのもととなるハウスダストやダニによる通年性のアレルギー性鼻炎や気管支ぜんそく、かゆみがつらいじんましん、そしてアトピー性皮膚炎など、今や日本人の約4割の方が、何らかのアレルギー性疾患に悩まされていると言われています。特にアレルギー性鼻炎は、大人になってから発症する方も多く、鼻炎症状や眼のかゆみなどによって睡眠障害になり、集中力が低下して仕事に影響が出るなど、労働生産性の低下も見逃せない問題となっています。

また、コロナ禍に習慣化した手洗いを、過剰にしてしまうことによる肌バリア機能の低下や、噴霧型の消毒剤を使用する際に、薬液を一部吸い込んでしまうリスクは、やがて腸内細菌叢のバランスの乱れにつながり、今後さらなるアレルギー性疾患を増やすことになるとも危惧されています。

ここ数年はコロナ禍による受診控えもあり、アレルギーの症状がありながらも放置してしまった方が多くいました。特にアトピー性皮膚炎においては、もともとしっかり皮疹のコントロールができていた方でも、長期間無治療であったためかなり重症化してしまったという例が散見されました。アレルギー疾患においても、日々のスキンケアと適切な治療の継続はとても大切と言えます。

アレルギー性疾患の治療は継続が大切

アレルギーと一言で言ってもさまざまな種類があるのですが、ここでは主に皮膚科外来でよく出会うアレルギー性疾患についてお話しします。前述の花粉症、じんましんやアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、症状が繰り返し続くことが多く、飲み薬や塗り薬をただ使うことで治ってしまうものではありません。むしろアレルギー体質といわれるように、ご自身の体質として、慢性的に生じる疾患と考えたほうがよいと思います。

そのため、抗アレルギー薬と言われる飲み薬を長期間内服する必要があり、症状の強さによっては鼻炎に対して点鼻薬、眼のかゆみや流涙に対しては点眼等を併用することもあります。

アトピー性皮膚炎など皮膚症状を伴うものに関しては、保湿剤や副腎皮質ステロイド薬を代表とした外用剤もかかせません。

また花粉症も、しっかり治療しないと昼間に眠気がでたり、集中力が低下したりするため、運転や仕事に大きな影響が出てしまいます。そして鼻の粘膜が温度差などの刺激により過敏になり、鼻炎症状が長く続く慢性鼻炎の状態になってしまうこともあるため、治療の継続はとても大切です。

漢方で一人ひとりの体に合わせたオーダーメイド治療を

このように長く治療を続ける必要のあるアレルギー性疾患ですが、漢方薬の免疫調整機能を利用して症状の改善を期待することができます。例として花粉症を考えてみます。

花粉症は漢方医学的には、気・血・水のうち「水」の停滞によって起こります。日々のストレスや過労などが原因で、体の免疫機能が乱れて水分の代謝が悪化すると、余分な「水(水分)」が体内に停滞してきます。この状態に花粉の刺激が加わると、それが鼻水や涙として出てくるようになると考えます。

また花粉症も症状によって、鼻水の多い「寒証」タイプと、鼻づまり症状の「熱証」タイプに分けられます。それぞれ体質も異なることが多く、「寒証」タイプの方は体の冷えが悪化因子となるため、体を温めて発汗・利尿を促す麻黄の入った 小青竜湯(しょうせいりゅうとう) や、体を温める 葛根湯(かっこんとう) 川芎(センキュウ) 辛夷(シンイ) を組み合わせた 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい) 等が使われます。また後者の「熱証」のタイプでは、鼻に熱がこもって炎症つまりが生じているため、熱を冷まし呼吸器を潤す作用のある 辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) などが有用と考えます。

花粉症に使用される漢方

● 鼻水の多い「寒証」タイプに

  • 小青竜湯
  • 葛根湯加川芎辛夷
    • ● 鼻づまり症状の「熱証」タイプに

      • 辛夷清肺湯
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          次に日常で経験することの多い、じんましんを例にあげてみます。中医学の基礎である五行学説には、「五臓(ごぞう)」という考えがあり、「五臓」は肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)の5つの臓腑のことを指します。

          じんましんは、このうちの感情の調節や自律神経系のバランスを取っている「肝」にトラブルが生じた状態と考えます。そのため、「肝」の機能改善やストレスの緩和に有効な 十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう) や、 抑肝散(よくかんさん) を併用することで症状の緩和効果が期待できます。

          じんましんに使用される漢方

          • 十味敗毒湯
          • 抑肝散
            • このように漢方薬は、ただ画一的な治療だけでなく、一人ひとりの体の状態に応じて、オーダーメイドで対応できる点が魅力です。また漢方薬には、抗アレルギー薬によくある眠気の副作用がないため、日常生活への影響が少ないのも大きなポイントです。

              漢方薬にも、含まれる生薬によっては副作用がある場合も

              さきほど、西洋医学の治療をベースとしながらも、一人ひとりの体質や病状によってより細かく適切な漢方薬の治療を組み合わせることで、さらに効率のよい治療が可能になるという一例をお示ししました。

              では実際に漢方薬を使用する際に、どういった注意点があるのでしょうか。

              もともと長期的に内服することで自然の治癒力を生かして体質改善を図っていくのが漢方薬による治療目的のひとつですが、副作用がないわけではありません。今回お示しした 小青竜湯 葛根湯加川芎辛夷 には、 麻黄(マオウ) という成分が含まれています。多くの漢方薬にも使われていて、体を温める作用の強い生薬ですが、内服することで、特に高齢の方や胃腸の弱い方では動悸、不眠や多汗などの症状が出ることがあります。また交感神経刺激作用があるため、アスリートの方はドーピング禁止薬物に指定されていることにも注意が必要です。

              アレルギーの専門医で漢方薬にも詳しい医師に相談を

              近年、これまでお示ししたようなアレルギー疾患においても、西洋医学の診療に漢方医学的なアプローチを組み合わせた、いわゆる和漢診療が見直されてきています。ただその診療に関しては、アレルギーの専門医であることはもちろんですが、漢方薬の治療にも長けている医師に相談することがとても重要です。

              漢方治療専門の医師は、診察の際に患者さんの訴えである「主訴」をとても重視します。患者さんを問診する際に、いつから、どんな症状があり、どういうときに悪化するのか、そしてどういうことが一番つらいのかなどを聞き取り、その後全体を診察していきます。その情報をもとに、治療ガイドラインに沿った西洋医学に加えて、それぞれの患者さんの体の状態にあう漢方薬による治療を一緒に考えてくれると思います。

              例えば、今まで西洋医学の内服薬や外用薬をしっかり継続していても抑えきれなかったアトピー性皮膚炎の乾燥や、コロナ禍で常用していたマスクが原因のかぶれなどに、「潤す作用のある“温清飲”を組み合わせてみましょうか?」など、新しい選択肢として漢方薬を提案していただけるのではないかと思います。

              実際に、「花粉症の治療で漢方薬を試したら、胃腸の調子が良くなった」とか、「アトピー性皮膚炎の治療をしたら、ついでに足のむくみが取れて立ち仕事のつらさが改善した」などの声もよく聞かれます。体全体のバランスを調整して、体質改善をはかることが可能となるのは、漢方治療における大きなメリットだと感じます。

               

              【追記】
              本記事の寄稿において、藤田医科大学医学部 産婦人科学講座臨床教授 西尾永司先生 ならびに 菊井の漢方薬局 稲生裕人先生 にご協力いただきました。この場をお借りし、深く感謝を申し上げます。

               

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