「冷え」の治療こそ、漢方治療の王道

ちぐさ東洋クリニック
院長 川越 宏文 先生

様々な病気の元にも、症状にもなる「冷え」

なんとなく体調がすぐれず医師の診察を受けたけれど、これといった異常が見つからず「あなたは正常、気のせいです」と言われた方はいませんか。この担当医が考える病気とは「器質的疾患」、つまり血液や画像検査で異常が見つかりそれが病気の原因となっていると判断された病気です。このような対応は20世紀の医療では当たり前で、患者さんの訴える症状を引き起こす病気を見つけて診断・治療していました。

しかし、最近その考えも変わりつつあります。通常の検査では異常が見つからないものの、自覚症状を伴う病気を「機能的疾患」と捉え、その症候に従って治療するというやり方が広がってきました。これらの症候は「痛み」「怠さ」「ほてり」など、器質的疾患として確定できず、自覚症状自体も数量化しにくいものです。また、疾患としては、慢性疲労症候群や線維筋痛症なども機能的疾患の1つです。

機能的疾患の症候

  • 痛み
  • 怠さ
  • ほてり
  • 冷え

「冷え」も重要な1つの症候です。この「冷え」は様々な病気の元にもなれば、出現する症状にもなります。この「冷え」に着目した治療によって症状が改善することがよくあります。

「冷え」に対する漢方治療がもたらす効果

私が漢方を使い始めた1994年頃に経験した、「冷え」の対処で症状が劇的に改善した症例となりますが、その患者さんはいくつもの大学病院で精査治療をうけ、「異常なし」とされた女性の30年間止まらない下痢でした。それらの病院では大腸内視鏡等の検査で腫瘍性疾患や炎症性疾患は否定されていました。しかし、病態である腸の動きには着目されなかったようです。最近ではこれらの病態に対しても西洋医学的研究が進みつつあります。

その他にも、「冷え」を見つけ出してその対処をすることで、様々な難治性疾患に対して治療をすることができました。「冷え」に対する漢方治療がもたらす効果が期待される範囲は、いまや全ての診療科に広がりつつあります。

そもそも「冷え」とは-冷えの漢方解釈

「冷え性」とはカラダが冷えやすい体質を、「冷え症」とは四肢末端や腹部などの局所の冷たい感じで生じた病態を指します。「低体温」は中心体温まで低下して生命維持的に危険な症候ですが、「冷え症」の段階ではそのようなことはありません。それらの状況を引き起こす病態として「冷え」を想定しています。

  • 冷え性:身体が冷えやすい体質
  • 冷え症:局所の冷感から生じる病態

「冷え」は自覚されていることが多いのですが、中には「私は冷えないです。どちらかというとのぼせ・ほてりです」という方がいます。そのような方の場合、上半身のほてりやのぼせは自覚されていますが、下半身の特に足首や足先が大変冷たいようです。お肌のトラブルも多いようですが、足首は逆に白くてすべすべしています。

冬だけでなく、夏場のエアコンも要注意―冷えの漢方薬処方の実際と注意点

冷え症の患者さんで、月経のトラブルがあり比較的体力が低下している場合には 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) を、体力が中等度でほてりやのぼせの強い方には 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) を、また手足の冷えが強い方には 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) を試してもらいます。この処方は、骨盤内の術後に起こる鼠径部の激しい痛みに対して奏効することがあります。

また、先ほどのほてりタイプの方の中には 桃核承気湯(とうかくじょうきとう) が有効な方もいます。みぞおちのあたりの冷えが強く、下痢をしやすいような方には 人参湯 を処方します。

冷え症の治療については漢方薬と同時に、夏場のエアコンで冷やしすぎないなどの生活改善も大事です。漢方薬だけでなく、衣食住に係わる生活全般について、医師に相談しませんか。漢方に詳しい先生を当サイトで探してみてください。

 

ちぐさ東洋クリニック
院長 川越 宏文 先生