長年のお肌の悩みに、漢方をプラスした治療を提案

野村皮膚科医院
院長 野村 有子 先生

身近なお肌の悩み「にきび」「アトピー」「じんましん」

新型コロナウイルス感染症の流行は、お肌にとっても試練をもたらしました。自粛生活が長引いたことによるストレス、マスクの着用、頻繁な手洗いなど、お肌にとって過酷な生活を送るうちに、もともとあった皮膚トラブルが悪化した方や、新たな皮膚トラブルに見舞われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

皮膚トラブルのなかでも多くの方が経験するのがにきびです。にきびは皮膚の慢性炎症性疾患で、なかなか治らずに悪化してしまうと痕が残ってしまうこともあるため、早い段階で治療を始めることが大切です。通常、にきびの治療には、毛穴の詰まりを改善する薬や、炎症の原因となるアクネ菌を減らす薬が使われます。

皮膚科診療でよく診るアトピー性皮膚炎は、痒みを伴う湿疹を繰り返すお肌の病気で、お肌が乾燥してバリア機能の異常が起こっているところへ、様々な刺激やアレルギー反応が加わり発症すると考えられています。病気そのものを完全に治す薬がなく、なかなか治らない病気ではありますが、痒みや湿疹などの症状を抑える治療をすることで治ったのと同じお肌の状態になるようにコントロールしていきます。

じんましんもよく診るお肌の病気です。皮膚の一部に突然、赤い腫れやブツブツが出て、時間が経つと消える病気で、多くの場合かゆみを伴います。よく知られているのは特発性のじんましんで、原因が不明の事が多いですが、抗アレルギー薬の内服で治療します。しかし、慢性化している場合は治りにくい例もあります。

よくあるお肌の悩み

  • にきび
  • アトピー性皮膚炎
  • じんましん

漢方をプラスすることで、治療に前向きになる方も

皮膚のトラブルがなかなか治らない方や、長年お肌の悩みを抱えている方、これまで西洋薬の治療を受けていたがそれだけでは治りにくいという方には、通常の治療に加えて漢方による治療を紹介することが多くあります。

アトピー性皮膚炎やじんましんの患者さんで夜眠れないほどの痒みがあったり、湿疹はないが痒みがひどくて日常生活がままならない皮膚掻痒症など、痒みが強い患者さんや、繰り返すにきびの患者さんには、 十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう) を使います。 十味敗毒湯 は、じゅくじゅくした湿疹があるようなときに、溜まっている「水」(リンパ液など血液以外の体液)や熱を発散させて、正常に戻していく作用があります。通常の治療にプラスして使いやすい漢方薬で、当院でも多く処方しています。

また、アトピー性皮膚炎で花粉症もあるという患者さんには、 小青竜湯(しょうせいりゅうとう) を使うこともあります。花粉症の治療のために 小青竜湯 を使ったところ、痒みも取れたという患者さんもいらっしゃいました。

にきびが痕になって皮膚がケロイド状になっている患者さんには、 柴苓湯(さいれいとう) を使うこともあります。 柴苓湯 は、「水」の循環を改善し、過剰になった水分を排出する働きがある漢方薬です。

お肌の不調に処方する漢方薬の例

お肌の悩みとして現れる様々な不調の改善も漢方でアプローチ

また、皮膚は体調のバロメーターとも言われています。身体の様々な不調が、皮膚トラブルとなって現れることもあるのです。そのような場合には、皮膚のトラブルのもとになっている不調に対処します。

末端に冷えがあって顔がのぼせたりしもやけができてしまう方、汗をかきやすい方、疲れがなかなかとれない方などの体質改善には、漢方薬による治療を提案します。気候の変動が激しい時期に体調を崩しがちな患者さんには 五苓散(ごれいさん) 人参養栄湯(にんじんようえいとう) を使ったり、更年期の訴えがある方には 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 加味逍遙散(かみしょうようさん) 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) を使うこともあります。

お肌の不調の原因となる体質を改善するために処方する漢方の例

気になる症状を医師に伝えて、より自分に合った漢方治療を

通常の治療に抵抗を感じている患者さんでも、漢方による治療なら試してみたいとおっしゃることもあります。漢方薬だから副作用がないわけではありませんので、副作用については説明したうえで治療を開始しますが、薬を使用することに抵抗がある患者さんにも漢方は受け入れやすい治療であるようです。漢方治療がきっかけとなり、通常治療にも前向きになった患者さんもいました。

一方で、漢方薬特有の難しさもあります。漢方薬は基本的に食前や食間に服用します。この「食前」「食間」という服用のタイミングに馴染めず、どうしても飲めないとおっしゃる患者さんもいます。そういう方には、タイミングよりも服用することを優先してもらい、食後になってもいいですよ、とお伝えすることもあります。飲みにくいと感じる場合もがまんせずに、医師に相談していただければと思います。

漢方治療を開始するときだけでなく、治療中も、「どんなときに調子が悪いのか」「何をしたら痒みが出たか」など、体調の変化や気になる症状などをどんどん医師に伝えてください。何かの症状が出たときなどにはメモをして記録を残しておくと、診察の際に伝えやすくなります。

伝えていただいた情報から、漢方薬を変更する必要があるかどうか、どの薬を選ぶべきかを医師は考えます。治療を提案するうえで非常に参考になりますし、より患者さん一人ひとりに合った治療の実現につながります。

 

野村皮膚科医院
院長 野村 有子 先生