尿に関するお悩みに、漢方で多角的にアプローチ

二宮レディースクリニック院長 二宮 典子 先生

二宮レディースクリニック
院長 二宮 典子 先生

恥ずかしいと感じがちな排尿トラブル、重症化する前に医療機関へ

外来を行っていて、患者さんからよく相談をうける泌尿器科のお悩みの中でも、2大トラブルといえば、「トイレが近い」「尿が漏れる」です。それ以外にも、「夜間にトイレに起きる」「尿を出すときに不快感がある」などの症状に困っている患者さんも多くいらっしゃいます。

困っている患者さんが多い泌尿器科のお悩み

  • トイレが近い
  • 尿が漏れる
  • 夜間にトイレに起きる
  • 尿を出すときに不快感がある

トイレが近いことは、医学的には「頻尿」といいます。この言葉は、患者さんが排尿行動(トイレへ行くこと)の多さに困っている場合に使用します。そのため1日に何回以上行くと頻尿、といった決まりがあるわけではありません。ご本人が困っているかどうかがポイントとなります。一般的には、1日に7回以上トイレに行かなくてはいけないときや、2時間くらいの尿意が我慢できないときに受診される人が多いようです。

「尿が漏れる」というお悩みには、トイレに行きたいときに間に合わずに漏れる場合や、くしゃみや咳をしたときに漏れる場合、自分では気が付かないときに漏れてしまっている場合、寝ている時に漏れてしまう場合(おねしょ)などがあります。漏れる量が少なく、1週間に1回よりも少ない頻度であれば我慢していることも多いようですが、たとえ1回でも服や下着を着替えないといけない量の尿漏れがある場合や、1週間に数回以上漏れてしまう場合には、受診される人が多いようです。

「夜間にトイレに起きる」とは、起きている間はトイレに困っていないけれど、寝ているとトイレに行きたくて目が覚めてしまう状態のことです。

「尿を出すときに不快感がある」とは、排尿後にもまだトイレに行きたい感じがある(残尿感)といった程度から、ひどい人では痛みを自覚する程度まで、人によって症状の強さが異なります。また不快感を感じる場所も、下腹部・外陰部・尿道など人によって様々です。

排尿トラブルは恥ずかしいと感じる症状が多く、医療機関への受診も重症化してから行う傾向にあります。しかし、どんな症状も重症化するほど治療が難しくなるのは当然です。強い薬は苦手という人であっても、一部の排尿トラブルは正しい生活習慣を身につけ、体にあった漢方薬を使用することで症状の改善が期待できるため、医療機関へ早めの相談をおすすめします。

排尿トラブルの原因は様々、命に関わる疾患が隠れていることも

トイレが近い「頻尿」は、過活動膀胱、間質性膀胱炎、神経因性膀胱、膀胱悪性腫瘍などの膀胱の病気、婦人科疾患や消化器疾患などの膀胱周辺の臓器の影響、多飲や食事の影響、緊張や習慣性によって生じる心因性頻尿などが原因として挙げられます。

膀胱が原因となっている場合は比較的原因も判明しやすく、西洋薬による治療が効果的です。しかし、一般的な薬で効果がない場合や、様々な事情のために内服継続が難しい場合などもあります。

「尿が漏れる」には、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁、溢流性尿失禁、機能性尿失禁があります。切迫性尿失禁には過活動膀胱の治療が効果的です。一方、そのほかのタイプの失禁では内服治療の効果はあまり高くありません。腹圧性尿失禁には生活習慣の改善や手術、レーザー治療など、溢流性尿失禁には排尿機能を悪くしている原因を見つけそれに対する治療や自己導尿が必要です。機能性尿失禁では、生活に必要な筋力を維持したり、トイレに入って着座するまでの行動をなるべく簡単にするなどの工夫することが治療となります。いずれの失禁も泌尿器科の専門の医師に相談したほうがよいでしょう。

「夜間にトイレに起きる」のは、膀胱や尿の問題と思われがちですが、脳に問題がある場合や、睡眠の問題、腎臓や心臓の問題、糖尿病や高血圧などの病気によるもの、筋力(特に下半身)の問題などが大きく影響します。場合によっては命に関わる疾患が隠れていることもあるため、早めに医療機関を受診してください。

「尿を出すときに不快感がある」のは、膀胱や外陰部の免疫力の問題が大きく関わります。年齢とともに粘膜が衰えることによる感染に加え、洗いすぎやそのほかの薬の影響で痛みが強くなる場合もあります。また、排尿時に不快感・残尿感を感じるために正常な排尿ができなくなっていることもあります。不快感を解消するために腹圧をかけて尿をだすことが習慣化すると、さらに症状の悪化を招きます。

尿路だけでなく、本当に困っている場所を支える漢方治療

漢方では泌尿器科に関する症状は「腎虚」という概念で治療するという考え方が一般的です。「腎」とは生命エネルギーのような意味があります。つまり、「腎虚」とは、加齢とともに生命エネルギーが消費され、ところどころ不足することによって排尿に関する症状がでてくるのだ、と考えられているのです。確かに、排尿のトラブルは高齢の方ほど多くなりますので納得です。年齢による変化から排尿の問題が起きていると判断した場合は、「腎」を補う「補腎剤」というグループの漢方を選択していきます。

また、感染症などの炎症による排尿のトラブルについては、「清熱」作用のある漢方を選択します。感染によって体が熱を抱えており、それによって症状がでていると考えるためです。西洋薬の解熱剤と異なる点は、漢方薬で「清熱」を考える場合は、いつから症状がでているのか、熱を帯びている場所、本人の体力や気力などの背景によって処方が変わる点です。

さらに、現代の外来で診察する排尿トラブルは、「腎」や炎症以外の問題も多く関係しています。例えば、本人の自覚の有無に関わらず、体が過度に緊張していることで排尿トラブルが起きている場合、「気」や「脾」の治療をすることで改善することがあります。「気」とはまさに元気の気を意味します。その人のバイタリティや気持ちの浮き沈みを反映する言葉です。また「脾」とは胃腸機能のことです。「脾」が衰えることで内臓全体の体力が減ったり、体温が十分に保てなくなることで排尿のトラブルが起きることがあります。

このように漢方では、患者さんが排尿トラブルを抱えていても、尿路だけの問題とは考えず、体全体を診て本当に困っている場所から支えていく治療を行います。

漢方ならではの考え方で排尿トラブルに対処

頻尿の中でも過活動膀胱の治療には、β3刺激薬や抗コリン薬と呼ばれる薬が効果的です。しかし、それらの薬の副作用のために内服することが難しい場合、漢方薬が選択されます。

頻尿や残尿感があり、気持ちよく排尿ができない場合には、まず 猪苓湯(ちょれいとう) を試してみるとよいでしょう。体の不要な熱を取り、むくみを改善しながらスムーズに排尿させてくれる作用があります。

尿が漏れるという場合には、骨盤底を鍛えたり手術を行うことが一般的な治療ですが、ここでも漢方が役立ちます。尿漏れに困っている人におすすめの漢方薬は 補中益気湯(ほちゅうえっきとう) です。 補中益気湯 には少なくなったエネルギーを補う力があり、骨盤の臓器を支えるエネルギーを補ってくれるというわけです。また、上半身をほぐし体をしっかり温めてくれる 葛根湯(かっこんとう) で、尿漏れが少なくなることもあります。

年齢を重ねたことによる排尿のトラブルがあり、夜間にトイレで目が覚めてしまうという人は 六味丸(ろくみがん) 八味地黄丸(はちみじおうがん) 八味丸(はちみがん) などを使用すると良いでしょう。これらの薬は全て「補腎剤」のグループで、年齢によって衰える気・血・水のエネルギーをじんわり補ってくれる働きがあります。 八味地黄丸 が一般的によく使用される薬ですが、手足がほてる人には 六味丸 、すこし胃もたれしやすい人には 八味丸 がおすすめです。

尿を出すときの不快感は、不快感の原因が色々考えられるため、今までご紹介した漢方を組み合わせて処方を行います。また、肉体的または精神底な力が不足しているため排尿の不快感が起きている場合には、 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) 六君子湯(りっくんしとう) を処方します。 半夏厚朴湯 は気持ちがよどんでしまいスッキリしない場合に使用します。 六君子湯 は体全体のエネルギーが低下し、お腹の真ん中から冷たく固いときに使用します。

そのほかにも、漢方薬ならではの考え方で色々な処方の組み合わせがありますよ。

排尿トラブルに対して使われる漢方薬

漢方専門の医師に相談するメリットは、変化する体に応じて治療を調整できること

漢方の処方は、医師免許があればどんな診療科の医師も行うことができます。症状を相談すればそれに対して何か漢方を処方してくれるでしょう。

しかし、漢方を専門にしている先生であれば、表面的な治療にとどまらず、患者さんの内面からくる体の不調を見つけてくれるかもしれません。そして、刻々と変化する体に応じて、効果のあるとき・ないとき、調子のよいとき・悪いときなど、色々な状態によって漢方を調整してくれるのも漢方を専門にしている医師に相談するメリットだと思います。

一番大切なのは、治りたいという気持ちとそれを改善するための努力であることも忘れずに、自分の体を労って毎日を過ごしてくださいね。

 

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院長 二宮 典子 先生