更年期障害の多彩な症状の改善に、漢方治療という選択肢

日常生活に支障をきたす更年期障害、女性だけでなく男性も

更年期とは、女性の生理が止まる(閉経)前後5年、合計10年間とされています。この時期には身体的・精神的なさまざまな症状が現れるようになりますが、症状の原因となる病気がない場合に、更年期症状と呼ばれます。更年期症状の中でも日常生活に支障をきたすほどの重い症状があるのが、更年期障害です。

更年期障害は、卵巣の機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の分泌が減ることが主な原因ですが、これに加えて加齢によって起こる身体的な変化や、不安や悩みといった心理的な要因、周囲との関係や文化的背景などの環境因子が加わることで起こるとされています。
男性でも、中高年になって男性ホルモン(テストステロン)が低下することで、女性の更年期障害と似た症状が起こるようになります。男性の更年期障害は、加齢性腺機能低下症(LOH症候群)とも呼ばれます。

女性の更年期障害の主な症状には、顔のほてりやのぼせ(ホットフラッシュ)、発汗などの血管運動神経症状、疲れやすい、めまい、動悸、頭痛、肩こり、腰痛、関節痛、冷えなどの身体症状、イライラ、不安、不眠などの精神症状があります。
男性の場合も女性と同じような身体症状や精神症状が起こりますが、性欲低下や勃起障害などの性機能症状も、男性の更年期障害における代表的な症状です。

更年期障害、女性は50歳頃にピーク。男性は40代以降ほぼ一定

更年期障害の患者数を推計するため、株式会社JMDCが保有しているレセプトデータを用いて、2022年4月~2023年3月の1年間に、更年期障害と診断された患者さんの数を集計しました。同期間に更年期障害と診断された患者数は134,087人で、この数からJMDC独自の推計ロジックで全国の患者数を推計したところ、推計更年期障害患者数は1,487,134人でした。

 

図1 年齢・男女別 更年期障害 全国患者数推計

 

男女別、年齢別にみてみると、更年期障害と診断された女性は43歳頃から増加し始め、50歳頃にピークを迎えています。以降は多少の波はありますが減少を続け、減少の速度は60歳を過ぎた頃から緩やかになっていました。

一方、男性の患者さんの数は50代ではほかの年代よりもわずかに増えますが、女性と比べると目立った増減はありませんでした。

更年期障害の治療は生活習慣の改善から。漢方も選択肢

女性の更年期による諸症状に対する治療では、生活習慣の改善と、カウンセリングや認知行動療法といった心理療法を行います。ホットフラッシュや発汗、不眠の症状が主な場合には、不足したホルモンを補うホルモン補充療法が行われますが、持病や過去の病歴によっては、ホルモン補充療法が受けられない患者さんもいます。また、さまざまな症状があり、それぞれの症状に対処しようとするとたくさんの薬が必要になってしまう場合などには、漢方による治療が選択肢となります。

漢方薬で女性の更年期障害の治療で主に用いられるのが、 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) 加味逍遙散(かみしょうようさん) 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) で、これらは「婦人科三大処方」と呼ばれています。

男性の場合も、まずはストレスのチェックや生活習慣の改善を行います。テストステロンの値が著しく低く、症状が強い場合にはテストステロン補充療法が行われますが、患者さんによってはテストステロン補充療法が受けられない場合もあります。テストステロン補充療法が受けられない患者さんや、テストステロンの値が判明する前、テストステロン補充療法以外の治療を受けたい場合には、女性と同じく漢方による治療が選択されます。

男性の更年期障害治療で用いられる漢方としては、女性と同じ3方剤に加え、 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) 八味地黄丸(はちみじおうがん) 補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう) 抑肝散(よくかんさん) が代表的なものとして挙げられます。

加味逍遙散桂枝茯苓丸当帰芍薬散が処方される更年期症状とは

「婦人科三大処方」は、実際にどのような症状に対して処方されているのでしょうか。JMDCが保有するデータから、2022年4月~2023年3月の1年間で更年期障害と診断された女性のうち、 加味逍遙散 桂枝茯苓丸 当帰芍薬散 が処方された患者さんを対象に、レセプトに記載されている更年期障害の症状を集計し、推計患者数を出しました。

更年期障害の主な症状は、血管運動神経症状(ホットフラッシュのような顔のほてり、のぼせ、発汗など)、精神症状(イライラ、不安、不眠など)、消化器症状(便秘・下痢、胃もたれなど)、泌尿器・生殖器症状(尿漏れなど)の4つに分類し、領域ごとに症状の記載数を集計しています。

 

図2 三方剤が処方された更年期障害患者が各領域に該当する症状が記載されていた割合


 

その結果、 加味逍遙散 が主に処方されていたのは精神症状で、次いで消化器症状と泌尿器・生殖器症状が同じ割合でした。 桂枝茯苓丸 は泌尿器・生殖器症状に対する処方が多く、次いで血管運動神経症状でした。 当帰芍薬散 が多く処方された症状は血管運動神経症状でした。

加味逍遙散 桂枝茯苓丸 当帰芍薬散 の効能は以下のとおりです。

つらい更年期障害の症状に悩まされているときは、がまんせず早めに医療機関に相談することが大切です。女性は婦人科、男性は泌尿器科での治療が一般的ですが、つらい症状がある場合には、主治医に相談して、内科や耳鼻咽喉科、心療内科、精神科などの受診も検討してみましょう。