重大な病気になる前に、漢方による肥満・むくみ治療

香川大学医学部医学科健康科学 教授
漢方専門医
塩田 敦子 先生

肥満・むくみは厄介な「未病」の状態

診察室を訪れる女性で、「体重の増加を何とかしたい」「むくみが気になる」という人が増えているように感じられます。それはなぜでしょうか。

47都道府県の20〜75歳の男女9,400人を対象とした調査※によると、新型コロナの流行前に比べて体重が増加したという人は38%、変化のない人が45%であったそうです。ステイホームの影響で運動不足となり、ストレスや不安を解消するために過食傾向となることは十分想像できます。また座りっぱなしの在宅勤務や、猛暑のためのクーラーによる冷え、水分・塩分の摂りすぎなどから、足だけでなく、身体もむくんだ状態になってしまうこともあるでしょう。体重増加によって膝関節症、腰痛も起こりやすくなり、運動できなくなってしまうという悪循環が生まれることもあります。

肥満・むくみは、「不摂生な生活を送っているせい」「自己管理能力がない」など、周囲から「スティグマ(負の烙印)」を受けたり、自らを貶めてしまう「セルフ・スティグマ」に陥ることもあり、なかなか厄介な「未病」の状態といえます。

しかし、肥満・むくみは次項で示すような病気の症状としてあらわれることもあるだけでなく、多くの疾患に繋がる危険因子でもあるので、注意が必要です。肥満・むくみの原因はコロナ禍など社会的・環境的要因のみでなく、遺伝的要因もあり、決して個人の責任だけに帰されるものではありません。ひとりで悩まず、医療や家族など周りのサポートを求めてほしいと思います。

※ 2022年9月実施 ノボ ノルディスクファーマ 「肥満」と「肥満症」に関する意識実態調査

BMI 25以上の肥満症、がんや認知症の原因にも

医学的には、BMI (体重kg ÷ (身長m)2) が25以上の場合を「肥満」と呼びます。減量治療が必要とされる「肥満症」は、糖尿病、脂質異常症、高血圧、痛風などの健康障害を有するか、内臓脂肪型肥満の場合です。

そのほとんどが生活習慣、ストレスなどが複合的にからまって起こる肥満ですが、急に体重が増えたりむくみが出てきた場合には、別の病気などが原因となっていることもあります。心臓のポンプ機能が低下してしまう心不全、腎臓の尿をつくる力が弱まる腎不全、全身の代謝機能が落ちてしまう甲状腺機能低下症などによるものです。片方の足だけがむくむ場合は、深部静脈血栓症や整形外科的な問題が原因であることもあります。

体重増加・むくみが出る病気

  • 心不全
  • 腎不全
  • 甲状腺機能低下症
  • 深部静脈血栓症
  • 整形外科的な問題 など

また、飲んでいる薬の副作用によっても肥満・むくみが起こることがありますので気をつけてください。具体的には、ホルモン剤、解熱鎮痛剤、降圧剤、抗生剤、向精神薬などです。漢方薬でも、 甘草 という生薬が入った漢方薬は、量や期間、あるいは人によってはアルドステロンという副腎から分泌される尿量や血圧を調節しているホルモンに似た働きをしてしまい、むくみ、高血圧、筋力低下といった症状が出ることがあるので注意が必要です。

肥満症は、心臓・脳血管疾患や糖尿病のみならず、慢性的に脳や腸で炎症のある状態を引き起こすことで悪性腫瘍や認知症のリスクが高まることも知られており、減量が望まれます。ただし、高齢者ではむしろ軽度肥満のほうが骨粗鬆症やフレイルを起こしにくいことが知られており、無理な減量はおすすめしません。

漢方からみた肥満は「食べ過ぎタイプ」と「ためこんでしまうタイプ」の2種類

体重増加・むくみが、疾患による症状や薬の副作用であれば、まずその疾患の治療や薬の減量・中止・切り換えをするべきですので、かかりつけ医や専門の医師に相談してくださいね。
漢方の考え方から肥満をとらえる場合は、「食べ過ぎるタイプ」と「ためこんでしまうタイプ」に分かれます。

漢方の考え方に基づく肥満の分類

  • 食べ過ぎるタイプ
  • ためこんでしまうタイプ

「食べ過ぎるタイプ」は、日頃から脂っこいもの、味の濃いもの、甘いもの、アルコールを摂ることや、イライラすることで、胃に熱がこもり、食べてもすぐ空腹になり、食べ過ぎてしまいます。どちらかといえば便秘症で、がっちりした「固太り」といえます。

「ためこんでしまうタイプ」は、もともと胃腸が弱いのに食べ過ぎてしまって胃腸の働きがもっと悪くなり水をさばくことができなくなった人と、過労・睡眠不足や汗をかくことで身体のエネルギーが不足して、やはり水も、血もめぐりが悪くなっている人です。どちらもぽっちゃりした「水太り」で身体が重く疲れやすくなります。大きいバケツの水が温まりにくいように、身体に水が多いと「冷え」が起こりやすくなり、基礎代謝が悪くなりカロリーを消費しにくくなります。

また更年期、閉経後などに多い、ストレスによる血行不良でも太りやすくなり、内臓脂肪型の肥満となりやすいといわれています。

むくみは、上記の「ためこんでしまうタイプ」で起こりやすく、筋力の低下、長時間の同じ姿勢、塩分・糖分・アルコールの摂りすぎなどから、水のめぐりの悪さ、水を動かすエネルギー不足、冷えが生じ、起こってきます。

漢方では「養生」も肥満治療の一環

「食べ過ぎるタイプ」の「固太り」の方には、 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん) 大柴胡湯 を多く用います。使い分けとして、どちらものぼせのあるような暑がりで便秘傾向の方向けですが、よく使用される 防風通聖散 は胃腸が強い太鼓腹の方に向いており、 大柴胡湯 はストレスが多く胸のつかえのあるような方に向いています。どちらにも含まれる 黄芩(オウゴン) という生薬ではまれではありますが肝機能障害を起こすことがあります。 防風通聖散 に含まれる 山梔子(サンシシ) は長期にわたっての内服(特に5年以上)で腸間膜静脈硬化症を起こす可能性があり、注意が必要です。

「ためこんでしまうタイプ」の「水太り」の方には 防已黄耆湯(ぼういおうぎとう) を使います。色白で筋肉がやわらかく、汗かきで疲れやすい人に向いています。下肢のむくみがあり、膝関節が腫れ、痛みがある場合にも効果があります。胃腸虚弱が目立つ場合は 二陳湯 の生薬構成を含む 六君子湯(りっくんしとう) などを用いることもあります。

血のめぐりが悪いような肥満の方には、 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) をベースに、ひどい便秘、イライラがある場合には 桃核承気湯(とうかくじょうきとう) を用います。

むくみに最も使われる漢方薬は 五苓散(ごれいさん) です。「利尿」ではなく「利水」に働き、全体的な水のバランスを整えながらむくみを解消してくれます。血のめぐりも悪いような月経前のむくみや授乳中、更年期の朝の手のこわばり(むくみ)には 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) がよく効きます。

肥満・むくみに対して使われる漢方薬

漢方では、「養生」といって、生活習慣を考えることも治療のひとつとしてとらえています。自分にあった漢方薬を飲むだけでなく、食事、運動、入浴、睡眠、そしてストレスをためないことが大切です。

肥満・むくみはひとりで悩まず、漢方専門医に相談を

漢方の専門の医師に相談することで、「四診」とよばれる視診・聞診・問診・切診を行ったうえで、処方を決めてもらうことができます。また「養生」のポイントなどの話も聞けます。漢方薬を飲み始めたら、その効果と副作用を医師に伝えることで、処方の変更をしてもらうことができます。

さらに治療の経過中には、肝機能障害などが起こっていないかをみるために採血をします。その際、コレステロール、中性脂肪、耐糖能などについての血液検査も同時に行い、改善を確認していくこともできると考えます。

ぜひ、ご自分のお住まいの近くで、漢方を処方してくれる先生を見つけてご相談されることをおすすめします。

 

香川大学医学部医学科健康科学 教授
漢方専門医
塩田 敦子 先生